時間短縮

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 世の中がせわしなくなる一方のような気がします。

 映画やテレビのドラマなどを見ていても、明治時代の人ですら、今の我々よりはるかにゆっくりとした会話をしており、平安時代の貴族にいたっては、これで国を統治するという仕事ができていたのかどうか本当に不思議なくらい長閑な会話のテンポです。

 

 歴史の専門家に聞いたのですが、「朝廷」という言葉は、午前中しか仕事をしなかったから生まれたのだそうです。

 一般に貴族は夜が明ける頃に出勤してきて、午前中だけ仕事をして、後は寝ていたり、歌を詠んだりして暮らしていたのだそうです。

 これは栄養状態がそれほどよくなく、朝から晩まで仕事を続けるということができなかったことなどが関係するとのことだそうです。

 そういえば、日本人が一日三食を食べるようになったのは戦国時代以降だそうですから、平安時代などは午後はお腹が空いて何もやる気にならなかったのでしょうね。

 そのお陰で、文化的なものは華やかに開花したのかもしれません。

 

 それに比べると現代のせわしないことといったら、日に日にその速度を増していきます。私が学生時代、洋書を注文すると2か月かかるのが普通でした。今は1週間くらいで手に入ります。10年ほど前までは「アスクル」など言って商売になっていたのが、今はAmazonで朝注文したものが夕方に届くこともあります。

 

 人が話す言葉もやたらと早く、短くなり、とにかく略語が使われます。

 

 マクドナルドをマックというのは、もともとマック・ドナルドだった綴りの前半だけ読んでいるのでまだ分かるのですが、ミスタードーナッツミスドナショナルジオグラフィックナショジオとするのは品が無いようにも思えますし、そもそもそんなに急がなくてもいいようにも思います。

 品性を疑いたくなる略し方もあります。女性のキャビンアテンダントはかつてスチュワーデスと呼ばれていましたが、これを「スッチー」と呼んだのは作家で元長野県知事田中康夫氏ですが、この人の政治的信条はともかくとして品性を疑ってしまいます。

 乗客の快適なフライトと緊急時の安全のために彼女たちが果たさなければならない役割や受けなければならない訓練の厳しさを理解しているのかどうか知りませんが、その職業に対する敬意のひとかけらも感じられない略し方ですね。

 

 現代人は何をそんなに急いでいるのだろうかと考えることがよくあります。

 

 しかし、時間が短くなって本当にありがたいと思っていることが一つあります。

 散髪です。

 学生時代、長髪だったのであまり散髪には行きませんでしたが、海上自衛隊に入隊し、幹部候補生学校に入った日に、隊内の散髪屋に送り込まれ、バリカンだけで3分間で候補生カットにされて以来、散髪の時間は5分以内となりました。そして少なくとも2週間に1回は散髪に行かなければならなくなりました。

 

 任官してからは少し長めの髪になりましたが、それでも制帽を被るので横や後ろは刈り上げにする必要があり、散髪にはよく行っていました。

 

 ただ、私はこの散髪の時間が苦痛で仕方ないのです。1時間近く身動きできず、目の前の鏡で自分の顔を眺めながら、つまらないラジオやテレビを聞いていなければならないのが苦痛なのです。

 

 ところが、この数年、10分ほどで散髪をしてくれる店があちらこちらにできました。

 本当に髪を切るだけで、髭を剃ってくれるわけでもなく、髪を洗ってくれるわけでもありませんが、とにかく早くやってくれるのです。

 元々私は髭が濃い方ではないので、プロに剃ってもらわなくても構いませんし、丁寧に分けて整髪料を付けてもらっても、ジョギングに行ったりすればすぐに乱れてしまうので、意味がないと思っていました。

 

 今は、ウォーキングを兼ねて出かけ、サッサと髪を切ってもらい、また歩いて帰ってきてシャワーを浴びてお終いにしていますが、とても快適です。

 時間が短いから雑なカットなのかといえばそうでもなく、確かに整髪料を使った丁寧な調髪ではないので、いかにも散髪に行ってきましたという感じにはならないのですが、私にはそちらの方が自然で好ましく思われます。

 値段も1000円ちょっとで安くていいのですが、料金よりも時間がかからず、予約の必要もないのが気に入っています。

 

 どこのお店も大体10分でやってくれるのですが、最近5分しかかからないお店を発見しました。

 12ミリのバリカンで横と後ろを刈り上げて、前髪はそれに合わせて適当に切って、と頼むと5分で終わってしまうのです。

 これは40年近く前の候補生時代に次ぐ記録的早さです。

 

 さらに前回は3分で終わったので、チップを渡そうかと思ったほどです。

 世の中全部がスピードアップされてせわしなくなったとは思いますが、散髪だけは早くなって素直に喜んでいます。

 よく考えるとかなり勝手な発想だとは思っています。