ノブレス・オブリージュ 高貴さは義務を強制する

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 昨年、イギリス王室のヘンリー王子(英国人はハリー王子と親しみを込めて呼んでいるようです。)と米国人の女優メーガン・マークルさんの婚礼の儀式が挙行されました。

 歴史的に古い王室を持つ国の国民としてもお祝いを申し上げたいと思います。

 

 ヘンリー王子は結婚によりサセックス公ヘンリー王子の称号を女王から授けられたと聞いていますが、19世紀以来絶えていたサセックス公爵位が復活したことになります。

 

 結婚式において印象的であったのは、王子がシンプルな軍服に身を包み、メーガンさんのドレスも極めてシンプルなデザインだったことです。

 “ Simple is the best policy “ を標語としている私の眼には極めて好ましく映りました。

 

 何故英国王室の王子は結婚に際して軍服を着用するか、皆様ご存知でしょうか。

 

 恰好いいとかいう問題ではありません。

 

 それは「ノブレス・オブリージュ(フランス語ではnoblesse oblige ですので、高校の時の第2外国語のうろ覚えの知識ではノブレソブリージュになると思うのですが、どなたか教えて頂けませんか?)の現れです。

 

 つまり「高貴さは(義務)を強制する」ので、国難に際しては一軍人として祖国のために戦う決意があるということを表明しているのです。

 

 現にヘンリー王子の叔父さんにあたるヨーク公アンドルー王子はフォークランド紛争に際して海軍の艦載ヘリコプターの副操縦として従軍し、空母インビンシブルに乗艦して警戒任務に就いています。

 

 このあたりが公家的伝統を持つ日本の皇室とは異なると思われる方も多いかと思いますが、実はそうでもありません。

 戦前は直系の皇位継承者を除き、男子の皇族が軍人になることは珍しくなく、昭和天皇の弟君であった高松宮殿下は海軍軍人で大佐で終戦を迎えられています。

 高松宮については、一日でも早く終戦とすべきとして皇族にしては珍しく政治的工作をされたことが戦後分かりました。

 

 高松宮殿下は海上自衛隊にも親近感をもって頂いていたようで、幹部候補生学校の私たちのクラスは卒業して任官した後、練習艦で洋上実習の途次、晴海に入港した際、高松宮邸にお招きを頂き、庭での小宴の際に、各テーブルを回ってこられた殿下に声を掛けて頂くという機会を頂きました。

 

 ところでヘンリー王子が着用された軍服は何の軍服かご存知でしょうか。

 たまたま私は同じ軍服をこの目で見たことがあるので、テレビの映像を観てすぐに分かりました。

 ヘンリー王子の軍服は近衛騎兵連隊の「ブルーズ・アンド・ロイヤルズ」の制服であり、同連隊は近衛連隊ではありますが、バッキンガム宮殿の警備と儀礼だけにあたる連隊ではなく、実際の戦闘任務にも投入される部隊です。

 したがって、バッキンガム宮殿の近衛兵のような派手な制服ではなく、極めてシンプルで精悍な制服になっています。王子は陸軍士官学校を卒業後、この連隊において最初の任務に就いていたそうです。

 

 一方で、聖ジョージ教会の前で王子を出迎えたダークグリーンの制服を着用した軍人たちは王立グルカライフル連隊の隊員であり、ネパールの山岳民族を中心に編成されるグルカ兵からなるこの連隊は、その勇猛さにおいて英国陸軍随一の伝統を持つと言われ、ハリー王子はこの部隊の一員としてアフガニスタンの作戦に従軍されています。

 

 たしか数年前に陸軍を大尉で除隊されたはずなのですが、少佐の階級章を付けているところをみると、現役は退いたものの、有事の際にはいつでも復帰できるように予備役に留まり、その間に昇任されたのでしょう。

 

 私も結婚した時は海上自衛官でしたので、結婚式及び披露宴には制服で臨みました。

 特別礼装という礼装があり、5月でしたので袖に階級章のついたネイビーブルーのディナージャケット風の上下にカマーバンドと黒の蝶ネクタイを付けていました。

 

 一人で更衣室で礼装に着替えていたら式場の担当のオバさんが現れ、私が黒の蝶ネクタイを付けているのを見て、葬式じゃああるまいし、それじゃ新郎新婦に失礼だと言い出したので、私が新郎であることを伝えると呆れたような顔をして、すぐに白い蝶ネクタイを棚から出してきました。

 袖の階級章を見せて、これは制服なので白いネクタイはできないのだと説明すると、納得がいかないらしく、それではと言ってスズランの花を持ってきたので、本当は服装規則違反なのですが、好意を受けることにして胸にスズランの花をつけて式に臨んだのを覚えています。

 

 まあ、イギリス王室の王子の結婚式と違い、海上自衛官の結婚式における花婿などは刺身のツマ以下の存在で、圧倒的な主人公は花嫁ですので、私が何を着ていたのかなどどうでもいい話ではありますが、軍服を着用した新郎に寄り添う新婦を見ていると、つい30数年前を思い出したりします。