世界中で飲んだコーヒー

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 このブログは「コーヒーで始まりドライマティニで締めくくる心豊かな一日」というタイトルでお送りしています。

 かつて船で世界中の海を航海し、一日に何杯もコーヒーを飲んできましたので、世界中でコーヒーを飲んできたと言ってもあながち嘘ではありません。

 太平洋、大西洋、地中海、インド洋の真ん中でコーヒーを飲むという経験は、船に乗っていた者の特権です。

 寄港地のハワイではコナコーヒーを楽しみ、ノルウェーオスロでは公園の片隅で売っていた紙コップのコーヒーが日本円で500円もするのにびっくりし(1980年代のことです。)、逆にポルトガルリスボンでは20円程度でびっくりしたりしました。

 地中海沿岸ではどこでもエスプレッソやトルココーヒーのように小さなカップでかなり濃いコーヒーが出され、しかし、トルコのイスタンブールでは砂糖をやたらと入れた甘い紅茶ばかり振舞われ、本場のトルココーヒーにありつくのに苦労しました。

 ヨットではよほど好天に恵まれないとコーヒーを淹れるということが難しいので、出港前にポットに入れておき、航海中は機会を見つけてポットのコーヒーを補充することになります。淹れたてを楽しむというのは滅多にできることではありません。

 それでも夏の夜、引き波に光る夜光虫を眺めながら飲むコーヒーや冬の空気が澄み切った夜の満天の星空を眺めながら飲むコーヒーは贅沢です。

 学生時代、日本橋丸善に参考書を買いによく行きました。大学院に進学してからは週に2回くらいは行っていたかもしれません。

 当時の丸善は古めかしく2階、3階の書籍売り場の床はリノリウム敷でした。2階にはカウンターだけのカフェがあり、サンドウィッチ程度の軽食は食べることが出来ました。

 コーヒーは大きなたらいのような鍋に湯を張って、白いホーローのポットに入ったコーヒーを湯煎にしたものを真っ白な何の変哲もないコーヒーカップに注いでくれるというものでした。

 お客の回転が速いので煮詰まったようなコーヒーが出てきた記憶はありませんが、結構濃いコーヒーだったように覚えています。

 このカフェには文壇の著名人や評論家などがよく立ち寄って、買ったばかりの本を読んでいることがあり、びっくりするような作家と隣同士になったこともあります。

 私は著名人でもカフェでのんびりコーヒーを楽しんでいる時くらいはそっとしておいて欲しいだろうと思い、声をかけたりすることはしないのですが、ある時、たまたま私が買って、そのカフェで読んでいた本の著者が現れ、私の後ろを通って隣に座り、ちらっと私の読んでいる本を見て「ホォ」と言ってニッコリされたのをよく覚えています。

 私はここの雰囲気が好きで、よく立ち寄ったものでした。

 現在も、外出すると時間調整のためカフェによく入ります。都内ではうっかり喫茶店に入るとタバコの煙でうんざりさせられることがあるのでスターバックスコーヒーがある時はそこに入ります。

 3年前まで住んでいたカリフォルニアでもスターバックスコーヒーにはよく入りました。というより、アメリカには喫茶店というのがないので、コーヒーを飲んでゆっくりしたいときには他に選択肢がないのです。

 米国のスターバックスコーヒーは日本のそれのように混んでおらず、席を探さなければならないということはほとんどありません。

 カナダにはもともとカフェがあるのですが、若い人にはスターバックスコーヒーが人気のようです。

 しかし、アメリカもカナダも日本のように中学生や高校生のグループが入ってきてテーブルを占領するということはなく、若くても大学生です。

 大きな本屋のフロアにはたいていスターバックスコーヒーがフロアの一角に入っています。

 英語を斜め読みできない私は、面白そうな本を見つけるとスターバックスコーヒーへ移動してコーヒーを飲みながら品定めをしてから買うことがよくありました。

 売っている雑誌を持ち込んで、全部読み終わって棚に返して買わずに出て行く豪の者もいます。

 私の地元、鎌倉には全国でもトップクラスの人気のスターバックスコーヒーの店があります。

 鎌倉駅西口から徒歩3分くらいにある御成店です。

 日中は観光客でスタンバイが出るほどですので、私が行くのは朝早くか夜ですが、広く落ち着いた店内やプールを眺めることのできるテラスの席などは気に入っています。

 しかし、スターバックスコーヒーのコーヒーが特に美味しいと思って飲んでいるわけではありません。スターバックスが出現するまでの米国のコーヒーは本当にまずいものばかりでしたが、日本には昔から喫茶店の文化が根付いており、美味しいコーヒーを淹れる店はあちらこちらにあります。

 これまでに数万カップのコーヒーを飲んできた経験から申し上げれば、一番美味しいコーヒーを飲めるのは実は自宅だと思っています。

 コーヒーは炒りたての豆を挽いたばかりであれば、よほどドジな淹れ方をしない限り美味しいものです。

 昔と違ってコーヒーの焙煎をする店はあちらこちらにありますので、炒りたて挽きたてのコーヒーを手に入れることはそう難しくはありません。

 なにより、どんな早朝であろうと深夜であろうと飲みたいと思ったときに淹れることができ、しかも、自分の好みの濃さを自分が一番よく知っており、使い慣れたカップで座りなれた椅子で、お気に入りの音楽を流しながら、本を読んだりDVDの映画を観たりと好きなことをしながら、隣の席を気にする必要もなく好みの種類のコーヒーを飲めるのですから、どう考えてもこれ以上美味しいコーヒーはないはずです。