三宅由佳莉さんが歌う「我は海の子」
最近、珍しい動画を発見しました。
海上自衛隊の歌姫三宅由佳莉さんが「我は海の子」というお馴染みの小学唱歌の7番を歌っているのです。
しかもいつもの彼女とは異なる厳しい顔で歌っています。
この動画を観て、いろいろなことを思い出しました。
私は小さい頃から海に親しんできました。
学生時代はヨットに明け暮れ、大学院に進学したのも、そのまま就職するとヨットを続けられないからです。
大学院に進んでみて、学者になる頭ではないなとすぐに分かったので、今度は職業的に船に乗れる仕事を探し、海上自衛隊に入隊したのですが、意に反してなかなか船に乗せてもらえず、市ヶ谷の防衛省での役人暮らしばかりさせられ、うんざりしていました。
その反動だと思いますが、退官した後は自分の海洋調査船を作るべく、一生懸命に働いています。
ということで、海に関わり始めて半世紀以上が経っています。
小さい頃から海をテーマにした歌をよく歌っていました。
好きだったのは「海」という曲です。
このタイトルの小学唱歌は二曲あり、「松原遠く消ゆるところ」というのも「海」ですが、私が好きなのは、簡単な方の「海は広いな大きいな」という曲です。
「行ってみたいな他所の国」というのが夢になり、そのまま海上自衛官になってしまったと言っても間違いではありません。
同じく「海」をテーマした曲では加山雄三さんの「海・その愛」などは海上自衛官でもカラオケで歌っている者がたくさんいます。夜、艦橋で航海指揮官として勤務していると、一緒に当直している当直員が皆無口なのに気が付きます。やはり同じような想いに浸っているのでしょう。
「海はいいぞー」
ここで、本日のテーマ「我は海の子」に戻ります。
戦前は小学唱歌として親しまれていたそうです。
作詞・作曲者とも不明なのだそうですが、格調の高い文語体の歌詞で書かれていますので小学生には若干分かりにくかったかもしれません。
この歌の一番、二番は私も小学生の頃には歌わされた記憶があります。
息子に確認すると今は歌われていないようです。
「松原遠く」と歌う「海」も歌われず、「海は広いな大きいな」の方の「海」は歌われているようですので、要するに文語体の歌詞の曲は歌われていないということでしょう。
この「我は海の子」という歌は、意外に知られていないのですが、本当はすごい歌なのです。
歌詞をご紹介します。
一、
我は海の子白浪の、さわぐいそべの松原に
煙たなびくとまやこそ、我がなつかしき住家なれ。
二、
生まれてしほに浴して、浪を子守の歌と聞き
千里寄せくる海の氣を吸ひてわらべとなりにけり。
三、
高く鼻つくいその香に不斷の花のかをりあり。
なぎさの松に吹く風をいみじき樂と我は聞く。
この辺まではまだ穏やかな歌詞ですね。
四、
丈餘のろかい操りて、行手定めぬ浪まくら
百尋千尋海の底、遊びなれたる庭廣し。
五、
幾年こゝにきたへたる、鐵より堅きかひなあり。
吹く鹽風に黑みたる、はだは赤銅さながらに。
だんだん壮大な雰囲気が漂ってきます。
六、
浪にたゞよふ氷山も、來らば來れ恐れんや。
海まき上ぐるたつまきも起らば起れ驚かじ。
かなり勇ましい歌になってきました。
圧巻なのは最後の七番です。
七、
いで大船を乘出して、我は拾はん海の富。
いで軍艦に乘組みて、我は護らん海の國。
そうか、愛国少年を鼓舞する歌だったんだぁ。
この7番があるためか、学校でフルコーラスを歌うことはなく、私は2番までしか聴いたことがありませんでした。
三宅由佳莉さんは、普段はにこやかかつエレガントに歌を披露していますが、この曲の7番を歌う時だけは、顔つきが全く違って、極めて厳しくなっています。
その動画をご紹介します。
https://www.youtube.com/watch?v=eR9AmI-Lrh8
彼女は、単なる歌姫として歌っているのではなく、海上自衛官として歌っているのでしょう。
彼女たち音楽隊員も一般隊員同様の入隊教育を受け、射撃も匍匐前進も遠泳も経験していますし、日常でも警備訓練などでは戦闘服に身を包み、小銃を持って警戒に当たったりしているのです。
この『我は海の子』を7番までフルコーラスを堂々と歌うのは海上自衛隊だけかもしれませんね。
(写真:防衛省撮影)