ドライマティーニ

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 前回はコーヒーがテーマでした。

 このブログのタイトルが「珈琲で始まり、ドライマティーニで締めくくる心豊かな一日」となっている以上、当然、今回はドライマティーニがテーマです。

 あらかじめお断りしておきますが、私は大酒飲みではありません。どちらかというと弱い方なのですが、弱いくせに強い酒を好むので、短期決戦になりがちです。

 

 親しい友人たちとの会食を別にすれば、飲むことを目的に出かけるということはほとんどありませんし、スナックで飲むという習慣は全くありません。

 自宅で私がカクテルを作り、司令長官(家内です)相手に飲むことが多いように思います。

 

 自宅でカクテルを作って女房相手に飲んでいると言うと不思議そうな顔をされることが多いのですが、スナックで他人のエコーがやたらとかかったヘタクソなカラオケを聞きながら、水にウィスキーを垂らした氷の溶けた生ぬるい液体をなめているよりも、BGMは選べるし、いくら飲んでも安いし、アルコールが回ったらすぐベッドでひっくり返ることができるし、終電を気にしなくていいし、ということで、外に飲みに行くよりもいいことだらけのように思うのですが・・・・

 

 昔ほどではありませんが、まだ自宅でカクテルを作る方は多くはないようです。

 今はシェーカーとメジャーはどこでも手に入りますし、カクテルグラスは100均ショップでも売っていますので、自宅で飲む習慣のない方にはお試しになることをお勧めします。

 

 私が自分のために作るカクテルは、喉が渇いた時のジントニックを別にすればドライマティーニだけです。

 

 ドライマティーニはジンとベルモットを混ぜたもので、ビターズを使うこともありますが、基本的にはジンとベルモットがあれば十分です。

 しかし、オリーブをグラスに沈めることは必要不可欠です。

 ジンはスーパーで売っている1本1000円程度のもので十分でしょう。ベルモットも何でも構いません。

 

 ドライマティーニにおけるジンとベルモットの比率については、過去数十年にわたって延々と論争が続いています。

 5:1から10:1あたりが相場のようですが、中にはベルモットの瓶のキャップをグラスの上で振るだけという御仁もおられ、喧しい議論は聞いていて飽きません。

 

 私の好みは、正確に測ったことがないのですが、限りなく10:1に近いかと思います。

 もともとベルモットはジンの独特のクセを和らげるために使われるのですが、私はジンの松脂臭さが好きなので、ほんのちょっとだけのベルモットを好んでいます。

 

 スーパーで売っているオリーブはほとんど種を抜いてピメントを入れたものなので、ドライマティーニには向きません。

 輸入食材を多く扱う店で見つけた時に買っています。

 

 ドライマティーニは数々の映画でも登場しますが、圧巻なのはショーン・コネリーの頃の007シリーズで、バハマのホテルのバーで出されたドライマティーニに激怒したジェームズ・ボンドの親友のCIA捜査官フェリックス・レイターが、ジン1本から何杯のドライマティーニを作ることができるはずなのかについてバーテンダーを一喝するシーンです。

 

 ショーン・コネリーの頃の007シリーズは、真夏のバハマのホテルで朝起きたジェームズ・ボンドが、冷たい水のシャワーを浴びた後、ルームサービスに自分好みの朝食をオーダーするシーンなど、あくまでもボンドが自分のライフスタイルにこだわっている姿をよく映し出しており、原作ではそれがイアン・フレミングの只ならぬ筆の力になっているのですが、映画のその後のシリーズでは脚本が悪いのかアクションシーンのみが強調されて面白味が半減してしまいました。

 

 自宅でドライマティーニを作る際、私はシェーカーにジンとベルモットを適量入れ、製氷室から取り出した氷を放り込むと手早くシェイクしてグラスに注ぎます。

 オリーブは、ちょっとだけ水にさらして塩分を落とします。

 そうしないとマティーニが塩辛くなってしまうからですが、水滴はよく落とさないとドライではなくなってしまいます。

 

 ここでドライマティーニをよく飲む方は「?」と思われるでしょう。

 ドライマティーニは本来はシェイクではなくステアなのです。

 つまり、ドライであるためには氷が溶け出すのを極力防がなければならないので、シェイクしないのが普通です。

 

 私がかつて好きだったバーに東京駅のステーションホテルにあった「オーク」というバーがあります。

 新装後のステーションホテルに寄ったことがないので今はどうなっているのか知りません。

 帰宅時に時折、東京駅で電車を乗り継ぐ際に立ち寄ることがありました。

 ドライマティーニを注文するとバーテンダーがビーカーとアイスピックと10センチくらいの立方体の氷を取り出します。

 見ている目の前でシャカシャカと氷を整形してアッという間に氷がキューブからボールに変わっていきます。

 そしてビーカーに落とすと、メジャーで計ったジンを注ぎ、ビターズベルモットを加え、ちょっとかき回してグラスに注ぎ、オリーブを添えて出してくれます。

 キリッとした味わいは何とも言い難いものがありました。

 使った氷はそれで用済み。

 ここのカクテルが高いわけです。

 当時の私の小遣いではそう何度も行けるお店ではありませんでした。

 

 一般の家庭ではプロのバーテンダーのように氷を扱うことなどできませんので、氷が溶けないように手早くシェイクすればいいでしょう。

 一番簡単なのはジンを冷凍庫に瓶ごと放り込んでおくことです。

 我が家の冷凍庫にはすでにウォッカの瓶が放り込んであり、司令長官の指示でこれ以上の酒類を冷凍庫に保管することを認められていないので毎回氷を使っていますが、奥様の了解を貰える方はそれが手っ取り早い方法です。

 

 ヨットで夕陽を眺めながら飲むドライマティーニというのは、この世で最も贅沢なドライマティーニの飲み方だと思います。

 ヨットの上ではカクテルを作るなどという作業は面倒です。

 そこでヨット乗りはどうするかといえば、あらかじめペットボトルに好みの量のジンとベルモットを入れておき、アイスボックスに放り込んでしまいます。

 これが案外いけるのです。

 

 もともとヨットの上では何を食べても飲んでもおいしいのですが、このドライマティーニも悪くありません。

 アイスボックスの中でヨットの揺れによっていい具合にシェイクされ、分子レベルでジンとベルモットが結合するのかもしれません。

 

 割れないようにパーティーグッズで安売りされているプラスチックのカクテルグラスですが、夕陽が沈むころ、フネの仲間と一緒に啜るドライマティーニは、洋上であろうとハーバーの中であろうと限りなく美味な極上の一杯です。