船乗りの言葉  Head

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 この記事のタイトルは“head”です。

 頭がどうかしたのか? と思われる方が多いかと思います。

 確かに通常は「頭」なのですが、船乗りが“head”というとき、ちょっと違う意味になります。

 

 多分、「船首」のことではないかと思われている方が多いかと思います。

 決して間違いではありません。

 

 帆船の船首に女神像が取り付けられていることがよくありますが、あれはフィギュアヘッドと呼ばれています。

 また、船首が指している方位をヘッディングとも呼びます。

 航空管制において管制官が航空機に針路の指示を出したりするときはコースとは言わず、”heading 010” (ヘッディング・ゼロ・ワン・ゼロ)などと指示するのが普通です。

 したがって、headが船首を示していると言っても誤りではありませんが、船乗りの感覚としては「前の方」という意味合いで使われることが多いようです。船首そのものを指す時に船乗りは“bow”(バウ)という言い方をするからです。

 

 それでは、船乗りはheadと言われると何と解釈するのでしょうか。

 

 「トイレ」です。

 

 船内にトイレの設備が設置されたのは、ポンプが発明された後です。

 それまでは船長など高級船員は桶のようなものを船室で使っていました。しかし一般の甲板員や軍艦の水兵などは外で用を足していました。

 

 帆船では船の後部は船長など高級船員の居住区や食堂になっていましたので一般船員は近付くことを許されておらず、船の一番前に張り板を出し、その板に穴をあけて、その穴を通じて用を足していたのです。

 

 実際に航海中の帆船の船首に立ってみると分かりますが、これは結構迫力のある光景です。

 ちょっと時化ていると出るものも出なくなりそうです。

 

 このことから、トイレのことをヘッドと呼ぶようになりました。

 

 船が港に入る際、ポートマスターに入港予定を告げて錨地の指定をしてもらう時、大抵は”Secure heads before entering port”と言ってきます。

 入港前に便所を使用止めにせよという指示です。

 汚物タンクを装備していない船ではトイレが使用禁止になります。

 

 日本では「便所」という言い方を避けて「お手洗い」などと表現したりします。

 英語でも同様で、toiletという直接的な表現を避けてbathroom という言い方をすることが多いようです。

 ちなみに restroom は公共の場にあるものを指すので、個人のお宅では違和感があります。

 

 私の経験だけで申し上げるので確かではないかもしれませんが、カナダ人は washroom という言い方をするようです。

 そして、英国人がもろに toilet というのを何回か聞いたことがあります。

 英国は地方や社会階級によって使う言葉が全く異なるので、果たして我々外国人が toilet と言っていいのかどうかよくわかりません。

 ご存知の方がいらっしゃれば、ご教示願いたいと思います。

 

 少なくとも船乗りは head でOKです。

 私が付き合う外国人は、海軍関係者やヨット乗りが多いので、その奥様方を含めて head という単語は問題なく通じます。

 

 ちなみに床を floor と言わずに deck と呼ぶのも船乗りです。